スポポニウムさん一押し!(男性・24歳)
リアルに狩りする“狩猟系"学園コメディ!
ゲームの勇者に憧れて「リアルでもモンスターをハントしたい!」と、俺・鈴鹿翔馬が入学したのは、日本初の狩猟専門課程がある萩乃森高校。新しい人生の始まりだぜ……と思いきや、いきなり初日にクマに襲われるし、実習は体力勝負のサバイバルだし、ゲームと違ってリアルの獣ハントは、とんだマゾゲーだ!
可愛い女の子、愉快な仲間、そしてなぜか不思議な幼女に囲まれて送る、獣だらけの学園コメディー狩猟生活!? さらば、まともな人生よ! 第6回小学館ライトノベル大賞・ガガガ大賞受賞作。
ガガガ小説大賞、第六回“大賞”受賞作。
第六回は何かと『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』のスマッシュヒットが取り沙汰されるが、そんなもん糞食らえ。売れ筋から離れていようが、売れてなかろうが、私は私が面白いと思った作品を推すだけだ、と考え、今回の選評投稿に踏み切った。
舞台は、増え過ぎた野生動物による農作物への食害被害が深刻化した仮想日本。大人気の某モンスターハントネットゲームの大ファンである主人公・鈴鹿翔馬は、日本初の狩猟専門高校である萩乃森高校に進学する。入学初日に学校近くの山中ででツキノワグマに襲撃された翔馬は、自称「山の神」である少女、熊野ミカに出会うが――。
カテゴリーエラーがなんだ。続編が書けなさそうだからなんだ。この作品はこれで全部だ、と言いたげな作者の“全力投球”に私は強い感銘を受けたのである。
まず特筆すべきは「狩猟」というテーマをラノベで書こうとした作者の発想の豊かさである。知っての通り日本は世界に名だたる農耕民族である。詳しい説明は省くが、歴史的に狩猟というのは、本質的に農耕民族である日本人の生活にとってはオマケでしかない。つまり猟師というものは、日本人にとっては農作物を襲う野生動物を打ち払うための「カカシ」ないし「都合のいい存在」に終始してきたという過去がある。
そんな「元祖日陰者」の存在が、現在になって重視されてきているというのも思えば皮肉な話である。農耕のやり過ぎと、それによる自然界改変によって激増した野生動物が、食い扶持を求めて里に降り、人間に仇をなすようになっている。そしてその始末のために猟師が必要になる……
そんな意図せざる悪循環を、このラノベは意外にもかなり社会派な語り口で描いてみせる。現代人にとって都合のいいファンタジーに堕さず、「こうなったのはあくまで日本人全員の無責任の結果である」と言い放ってしまうこのラノベの正論を見よ。誰もが言い逃れは出来ないはずである。
また、狩猟を中心とした主人公グループの青春っぷりも特筆すべきだ。
このラノベの素晴らしいところは、「狩猟」というキーワードを描いている、という事以外に「主人公らの青春」を丹念に描いている点にある。この作品は決して狩猟モノ一辺倒ものではない。
それはつまり、「狩猟という要素をちゃんとラノベに落とし込めているか」という点に尽きるのであろうが、それについてはほぼ満点をあげてもいいと思う。友情あり、恋あり、挫折あり、悩みあり、成長ありの、青臭い学生時代のワンシーンを、ちゃんとこの作品は描けている。
着眼点の面白さと、それ以外の要素も書くことが出来る実力。これがこの作品を『大賞』に押し上げた力の源泉であろう。
お気に入りのキャラはいますか? どんなところが好きですか?
熊野ミカ。熊の神様。
あまり知られていない事実であるが、なんでも山の神様は好色であり、気に入った男は魅入られて連れ去られてしまうという。ミカもそんな山の神のDNAをよく受け継いでいる。
しかし、彼女はあくまで「山の神」ではなく「熊の神様」なのだ。終盤において彼女が主人公に対して投げかける問いは、多くの日本人にとって答えようのない問題となるだろう。人間と野生動物の愛憎関係、それをどう解決するか、その答えは読者ひとりひとりに託されている。
この作品の欠点、残念なところはどこですか?
と、今まで激賞していたクチでいうことだが、この作品はかなり荒削りなのである。
まず、キャラにそれほど魅力がない。作品全体としての完成度を優先して、キャラのはっちゃけ度を抑えてしまったようにも思えるし、主人公の「ネトゲオタク」っぷりを優先し過ぎて、主人公のキャラが薄くなったきらいがある。設定上はめちゃくちゃな主人公であるが、本文上で具体的なエピソードが弱い。
また、終盤の『大猪に学校全体で復讐する』という一連の流れも、かなり怪しい。今時、このような復讐劇を認めてくれる学校は皆無だろう。この点さえなければ、もっとよくなっていた。
いずれにせよ、瑕疵はあろうが、書ける作者であろうと思う。『下ネタ~』がなんだ。私はこちらの方を愛そう――そう思えるぐらいには、この作品は読める作品である。