「支配される」ということは「価値を認められる」ことと同意義です。
人間は犬や猫を飼って、彼らを支配していますが、これは彼らが「かわいい」からです。彼らから癒しやぬくもりなどのポジティブなフィードバックが返ってくるから、わざわざ手間とお金をかけて、彼らの世話をするのです。
支配というと、強者から一方的に搾取されるようなネガティブなイメージがありますが、何かを支配するためには大変なコストがかかるのもであり、支配対象に価値を感じていなければ、わざわざ支配しようとしたりはしません。
美少女から支配されるということは、美少女から価値ある存在だと承認される、愛される、ということと同じなのです。
2000年代を代表する大ヒット作『涼宮ハルヒの憂鬱』(2003/06)では、語り部のキョンは、ヒロインのハルヒに強引にクラブ作りに協力させられます。
ハルヒは、文芸部の部室を乗っ取って、SOS団(世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団)の活動拠点とした際、彼にこのように告げます。
「これから放課後、この部屋に集合ね。絶対来なさいよ。来ないと死刑だから」
引用・「凉宮ハルヒの憂鬱」 著者:谷川流
「おおっ、僕もハルヒたんのような美少女に、『来ないと死刑だから』とか言われてみたい!」
と、これを読んで内心、嬉しく感じた読者は多いのではないでしょうか?
ハルヒが、なぜこのような命令をするのか考えてみると、それは「キョンに部室に来てもらいたいから」に他なりません。
「部室に来てもらいたい」ということは、キョンを価値ある存在だと認め、側にいてもらいたい、ということです。
キョンに命令し、暴君のように振る舞っておきながら、実はハルヒはキョンに依存している訳です。
キョンは自己中心的なハルヒに振り回されますが、一方で、彼女のピンチにおいては全力で助けたり、暴走したら本気で叱ったり、仲間からの信頼に応えたりしています。
ハルヒの単なる奴隷、操り人形なのではなく、ヒロインを守る、導く、という古来からのヒーローの役割も兼ね備えている訳です。
これによって、ハルヒや仲間からは一目置かれ、キョンに感情移入していた読者はカタルシスを得られます。
美少女から支配されることによって価値を承認され、そこから発生する情けない男に成り下がるというデメリットを、美少女を救うことによって解消、快感に昇華してしまっているのです。
このようなラブコメの構造は、それ以後のヒット作でも見ることができます。
例えば、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(2008/8)の主人公・高坂京介は、美少女の妹・桐乃に命令されて、深夜にエロゲーを買いに行かされたり、ケータイ小説の取材に協力させられたり、無理矢理、彼氏の役をやらされたりします。
妹にまるで奴隷同然に扱われている訳です。
しかし、桐乃の悩みやトラブルを解決するために、身体を張って行動し、彼女を救うことによって、カッコイイ主人公としての面目を保てています。
なにより、桐乃が京介を自分の趣味に付き合わせる、無理難題を吹っかけるということは、彼女が兄に甘えている、心を許していることの裏返しでもあります。
本当に兄妹仲が冷え切っているのなら、お互いに無視して過ごす、干渉しないのが自然です。
言いたい放題する、ということは、それだけ心理的距離が近く、相手が決して自分を嫌ったり、見捨てたりしない、という信頼関係があるということです。
また、ややマイナーな作品ではありますが、『生徒会ばーさす! ~お嬢様学園の暴君~』(2009/6)は、学校に君臨する絶対権力者である美少女の生徒会長が、男子生徒たちに女子の制服を着ることを強要し、主人公を始めとする男子生徒たちはこれに反発して、3 本勝負を挑むというものです。
「いい? この学園ではあたしが法律、あたしが正義、あたしが神なのよ! わかったら服従しなさい!」
引用・「生徒会ばーさす! ~お嬢様学園の暴君~」 番棚 葵
このような支配に対して反発するものの、支配関係を完全に覆すような状況にはなりません。
女の子から支配されるというのは男子にとって屈辱なので、反撃はするものの、暴君からのさらなる圧政が浴びせられます。これが快感なのです。
男子としての面目を保った上で、美少女から支配され価値を承認されるからです。
主人公は、財閥のお嬢様である生徒会長の使用人という立ち場でもあり、プライベートでも主従関係にあります。しかし、幼馴染みということもあって、まったく敬語を使わず、彼女に言いたい放題言ってやり込めることもできます。
支配されているものの、反抗は自由にすることができ、これによって彼女との距離が縮まって好かれる、という非常においしい立ち場にあります。
これはもはや、男子の夢(妄想)の具現化としか言いようがない状況です。
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