設定資料を細部まで作ることは、その世界にリアリティを与えるために必要な作業です。
有名なライトノベル作家では「フルメタル・パニック」の賀東 招二さんや、「トリニティ・ブラッド」の吉田直さんなども、膨大な設定を書き連ねているそうです。
事実、彼らの作品は、矛盾など一切感じさせない、完成度の高いモノに仕上がっています。
設定を作り込むことは、大切なことです。
ただし、設定はあくまでストーリーを引き立てるための要素に過ぎません。
素人にありがちな失敗として、せっかく作った設定を披露したくて、とにかく設定を書き連ねてしまうということが上げられます。
ストーリーにあまり関係してこない不必要な情報を書き込むと、テンポが悪くなるばかりが、読者を混乱させてしまうことになるので要注意です。
読者は設定ではなく、ストーリーを読みたいのだということを忘れないでください。
例として、当サイトに投稿された『Libera me~革命の聖女~』の冒頭の一文を上げます。
●例
帝国暦四七七年十二月二十五日――この日、アストリア帝国の首都ザンクト・フローリアンにあるエステルハーザ宮殿の「天堂の間」は、華麗な礼装に身を包んだ三千人を越える男女によって埋め尽くされていた。
天才画家ベルナルドゥスとその弟子たちが半世紀の生涯をかけて描いたとされる、天地創造の神話を題材にした荘厳な天井画が列席者たちを見下ろしている。
広間の奥には大きな真紅のカーテンが架けられ、その前には帝国における最高の地位を担う人々が佇んでいる。
重臣、大貴族、将軍、その他の高級官僚および軍人たち。彼らは幅三ファーデン(約六メートル)の赤絨毯を挟んで列を作っていた。
向かって左側が文官の列、帝国宰相グロティウス公爵が最上位を占め、続いて財務尚書(大臣)ホフマンシュタール侯爵、外務尚書ヘーゼルシュタイン伯爵、内務尚書ラインスドルフ伯爵といった面々が立ち並んでいる。
いかがでしょうか? あまりにも固有名詞の数が多くて、すんなりとは理解できなかったと思います。
おそらく作者は、細部までこだわって作っていることをアピールしたくて、このような冒頭を作ったのでしょうが完全に逆効果です。
人間の脳は、見知らぬ単語や人名をいっぺんに覚えられるようにはできていません。
特に、カタカナ文字は日本人には馴染みが薄いため、読みづらく覚えにくいです。
人名や国名などは小出しにして、読者に徐々に飲みこんでいってもらえるように配慮しなければいけません。
●例2
「アストリア帝国、ザクソニア王国両国政府は以下の条約を相互に批准、締結する。一、アストリア帝国政府はファルツ大公ハインリヒ四世の公位継承を正式に承認する。二、ファルツ公国はアストリア帝国に対し二億ギルダーの保障金を支払う。三、アストリア、ザクソニア両国はファルツ公国におけるアストリア帝国の宗主権を再確認する。四、アストリア、ザクソニア両国の軍隊はバイエルラント、ファルツ、テューリンゲン、ヘッセン、ウェストファーレンの各領邦の占領地よりただちに撤退する。なお、撤退期限は条約批准より九十日以内とする。五、アストリア、ザクソニア両国は和平と友好の証として、アストリア帝国皇女エリザベートとザクソニア王国皇太子フリードリヒ大公との婚約を締結する……」
このセリフは、同じく『Libera me~革命の聖女~』の冒頭の一文です。
これまた、人名や地名、単価などの固有名詞が多く、なにがなんだかサッパリわかりません。
すべてを理解しようなどという気には到底なれませんし、理解せずに読み進めると、ストーリーが把握できなくなってきます。
作り込んだ設定を作中で無理矢理全て使おうと思ってはいけません。
表には出ていなくても、世界を裏から支えてくれるのが設定です。
人間ドラマを楽しむべき小説で、設定が大量に掲載されていては、理解するのが苦痛になって読者が離れていく恐れがあります。
設定は必要に応じて小出しにしていくのがコツです。
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