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空の彼方
小さな路地に隠れるようにある防具屋「シャイニーテラス」。 店の女主人ソラは、訪れる客と必ずある約束をかわす。 それは、生きて帰り、旅の出来事を彼女に語るというもの。 ソラは旅人たちの帰りを待つことで世界を旅し、戻らぬ幼なじみを捜していた。 ある日、自由を求め貴族の身分を捨てた青年アルが店を訪れる。 この出会いがソラの時間を動かすことになり─。不思議な防具屋を舞台にした、心洗われるファンタジー。
ストーリーは店に来る客の話を店の主人が聞くと言う形なのですが、 複数のエピソードが複雑に絡み合い、 最後にパズルのように一つ物語が完結する瞬間は鳥肌が立ちました。 そして、予想を裏切る、切ないラストが印象的でした。 また 、一度読み終わってから、改めて読み返す事で、各エピソードに隠れた、 様々な伏線に気づくのですが、作者の文章力の高さが伺えます。 しかも、デビュー作だと言うのが更に驚きでした。
舞台となる防具屋の主人で、物語の主人公。 病気のせいで、太陽の光を浴びる事ができない彼女は、 雪のよう白い肌に華奢な体の病弱そうな外見と、 物腰の落ち着いた人形的な仕種が合わさって、凄く神秘的な魅力的のある女性です。
ちょっと複数過ぎて、一度読んだだけだと、話が少し解りにくいかもしれません。
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ダークエルフの口づけ
“ダークエルフの口づけ―それは、死の宣告。” 少年アマデオは、ダークエルフの一味に村を襲われ、親類友人を惨殺されてしまう。 そして少年自身も追い詰められ、死を覚悟する。 そのとき現れ、彼を救ったのは、美しいエルフの女性ベラだった。 数年後、青年に成長したアマデオは、ベラの下で警備兵となっていた。 ベラの役職は国の最重要施設の保安主任。 だが彼女の正体は、ダークエルフの里から送り込まれた密偵だった―! 舞台は、暗黒神信仰が認められ、ダークエルフに市民権が与えられた国、「混沌の王国」ファンドリア。 闇よりも深い、ダークエルフの心の裡を炙り出す、待望の新シリーズ開幕。
と、いきなり小難しそうな単語ばかり出てきましたが―― ソード・ワールドとは、90年代前半を席巻したグループSNEのTRPGのこと。 (テーブルトークRPG:昔はコンピュータを使わずに紙と鉛筆と即興で遊んだのです) また、シェアド・ワールド・ノベルとは、 同じファンタジー世界を複数の作家で共有して書かれるオムニバス小説のことです。 グループSNEの有名シリーズと言えば、<魔法戦士リウイ>シリーズや <ロードス島戦記>シリーズなどがあり、 またソード・ワールドも山本弘さんの<サーラの冒険>シリーズが高い評価を得ています。 皆さんもそれらのシリーズの名前ぐらいは耳にしたことがあるんじゃないでしょうか? もっとも、今となってはこれらシリーズも、一部の好事家が手に取るぐらいのものとなり、 あまり話題にはならなくなっていました。 が。そんな状況にあって、ライトノベルの熱心な読者の間で、 2007年ころじわじわと話題を呼んでいたのが本作――、<ダークエルフの口づけ>シリーズです。 ソードワールドと言えば、勧善懲悪といった話が主流であり、コメディ色も強かったのですが、 本シリーズは――美しくも妖しく、さらに最重要施設の保安主任でもあり、 暗黒神側の密偵でもあるダークエルフのベラを中心に書かれていることもあり、 優れたスパイ小説としての読み応えがあります。 また、第一巻はわりと分かりやすいストーリーになっていますが、 第二巻以降は、すべての登場人物が腹に一物を持っているため、誰が何を企んでいるのか、 誰に利用されているのか、あるいは誰を騙しているのか、そして誰が殺され、誰が生き残るのか―― といったコンゲームの様相も呈してきます。 もちろん、複雑な人間関係が相互に絡み合い、上質なドラマにもなっています。 富士見ファンタジア文庫は、中高生向けの分かりやすいファンタジーをラインアップにしていますが、 本作は玄人筋の読者の審美眼にも十分に耐えうる良質な作品だと言えます。
しかし、その一途さが、時にベラの闇の部分によって傷つけられ、 それでも信じようともがき、苦しみ――、若き熱血漢として少しずつ物語の核心へと迫っていきます。 最後に彼が見たものは、果たして幸福だったのか、それとも絶望だったのか。 あるいは新しい旅立ちなのか、復讐なのか――、 彼の出自と今後の動向、何より彼に恋する小さなお姫さまエビータの存在も含めて、 次の第二部の幕開けが楽しみです。
ライトノベルを専門的に読む玄人筋からは絶賛されつつも、二年もの間、 ほとんどの読者の間で話題にならなかったのは、この作品にいわゆる「萌え」の部分や、 読者に強烈にアピールするものがなかったからだとも指摘できます。 つまり、とても技量の高い作者が記した、上質の小説――、ライトノベルというより、 優れた海外のヤングアダルト作品とも言えるのではないでしょうか。 ただし、一度、この本を手に取ってしまったのならご注意を――、 二転三転するストーリーと複雑な人間関係に、ページをくくる手を止められなくなってしまいますから。 なお、現在、このシリーズは一〜四巻にて第一部を終了しています。 第二部は2008年の夏ごろでしょうか。本当に待ち遠しいです。
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