2011年頃から、口語体の長文タイトルが付けられたライトノベルが目立つようになりました。
『誰もが恐れるあの委員長が、ぼくの専属メイドになるようです。』 (2011/11)、『嫁にしろと迫る幼馴染みのために××してみた』((2011/8)、『彼女がフラグをおられたら 俺、この転校が終わったら、あの娘と結婚するんだ』
(2011/12)などです。
これはおそらく、2008年8月刊行の『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』、2009年12月刊行の『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』が大ヒットし、長文タイトルの小説が売れることがわかったため、各出版社がこれに追随したのでしょう。
編集者は、ヒット作のタイトルの研究に余念がなく、これをマネしたタイトルの本を出す傾向があります。
書籍『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』((2012年4月刊行)によると、長文タイトルのライトノベルは「楽しそう」+「ネタになる」を追究した結果、生まれたそうです。
長文タイトルは、一目見て「楽しそう」であることが伝わり、ネット上やリアルの友人関係で「こんな変なタイトルのラノベがあったぞ!」と口コミしてもらえるメリットがあるという訳です。
ただ、バカバカしい内容の長文タイトルが増えるにつれて刺激が薄れ、2013年9月の段階でネタにされる機会は明らかに減少しています。なので、もうあまりネタにしてもらうことは期待できないでしょう。
それよりも注目すべきは、長文タイトルのラノベが「とにかく読者の興味を引くこと」を追究している点です。
私はラノベの長文タイトルは、ネットの記事の影響を受け、その技法を取り入れていると考えています。
ネット上の記事は、とにかくクリック、タップしてもらって中身を読んで貰わないと意味がない、ページビュー数至上主義な世界です。ネットにはコンテンツが溢れかえっているため、タイトルや見出しにおいて、恥も外聞もなく目立つこと、人の興味を惹き付けることが求められるのです。
例えば、大手ニュースサイト、livedoorニュースで2013年09月02日に配信された記事のタイトルは、
『みのもんたさん、セクハラ?女性アナ手振り払う』
『「イライラして」中2女子ら、学校に侵入し放火』
『海外で婚活! 国際結婚に見る日本女子の潜在モテDNAとは? ~ヨーロッパ編~』
など、一目で内容がわかる上に、他人のモラルを問うモノや、性や恋愛を絡めたモノが多いです。
これは読者の潜在的欲求に訴え、条件反射的に記事を開いてもらうことを追究した結果です。
とにかく、「読んで貰ってナンボ。下品だろうがなんだろうが構わない!」という精神が、その根底にあります。
当サイトでも小説の競争企画を開いて高得点を取るのは、この原理を理解している人です。
以下は2012年のゴールデンウィーク企画で40作品中、上位に入った作品タイトルです。
第1位『Q.お兄ちゃんは病気ですか? A.YES、もはや治療不可能ですっ♪』
第2位『うち、あんたの事めっちゃ好きやねん』
第3位 『理系女子と恋したら』
このように恋愛を匂わせたタイトル、内容が一目でわかるタイトル、極端なキャラクター性を出したタイトルを付けています。特に1位の作品タイトルは中身が気になるように工夫されていますね。
こういうタイトルの方がネット上では、閲覧してもらいやすいです。
これを踏まえて、ラノベの長文タイトルを考察すると、やはり恋愛や性に絡んだタイトル、極端なキャラクター性を出したタイトルを付けている傾向があることがわかります。
ネットのコンテンツ同様、ラノベもこの世に溢れかえっているため、他の作品よりも少しでも目立とう、読者の興味を惹き付けようと、みんな必死なのです。
極端なキャラクター性を出すのは、ラノベではキャラクターのおもしろさ、印象の強さが、ストーリー以上に人気を左右するからです。
●恋愛を絡めたタイトル
『俺の脳内選択肢が、学園ラブコメを全力で邪魔している』
『モテモテな僕は世界まで救っちゃうんだぜ(泣)』
『ここから脱出たければ恋しあえっ』
『美少女と一緒にゲームを作ったら死ぬほど楽しいに違いない』
『俺のリアルとネトゲがラブコメに侵蝕され始めてヤバイ』
『俺がヒロインを助けすぎて世界がリトル黙示録!?』
●極端なキャラクター性
『おまえをオタクにしてやるから、俺をリア充にしてくれ!』
『東雲侑子は全ての小説をあいしつづける』
『魔王が家賃を払ってくれない』
『うちの居候が世界を掌握している!』
●恋愛+キャラクター性
『俺の彼女と幼なじみが修羅場すぎる』
『お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ』
『悪に堕ちたら美少女まみれで大勝利!!』
『彼女を言い負かすのはたぶん無理』
2010年12月刊行の『お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ』は、2012年内でシリーズ累計発行部数100万部を突破、2012年10月にアニメ化。
2011年2月刊行の『俺の彼女と幼なじみが修羅場すぎる』は、2013年3月の時点で累計70万部を突破し、2013年1月にアニメ化されています。
『俺妹』『もしドラ』に続く、長文タイトルのラノベからヒット作が生まれて来ている訳です。
こういったタイトルは、下品だったり安っぽい印象を与えますが、これはライトノベルというジャンルの持つイメージ、強みに合致しています。
小説というと、どうしても高尚、難解なイメージがあります。敷居が高いので、中高生や疲れた社会人には手に取ってもらいにくいです。
そこで、高尚、難解とは正反対の『バカっぽさ』を出すことによって、これなら簡単に楽しめると思ってもらうというのが、長文タイトルの最大の目的だと言えます。
実は、一般文芸の世界にも長文タイトルの作品が昔からありました。
例えば、フィリップ・K・ディックが1968年発表したSF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』といったものです。
アンドロイドは電気で動いているのだから、見ている夢の内容も人間とは異なるだろう。羊じゃなくて、電気羊の夢を見るのじゃないか? という意味です。
ユーモアが感じられますが、ここから受けるイメージは、ラノベの長文タイトルとは正反対の『難しそう』『高尚っぽい』『内容がわかりにくい』です。
『俺の彼女と幼なじみが修羅場すぎる』と『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』が本屋で並んで置かれていたら、漫画やアニメ、ゲームに慣れ親しんだ若者は、やはり前者を取るでしょう。
内容が一目でわかって、楽しいラブコメ要素満載であることが伝わりますからね。
・一目で内容がわかる。どういったコンセプトで楽しませてくれるのか?
・恋愛要素が絡んでいる。
・極端なキャラクター性が出ている。
携帯版サイト・QRコード
当サイトはおもしろいライトノベルの書き方をみんなで考え、研究する場です。
相談、質問をされたい方は、創作相談用掲示板よりお願いします。