pingさんの質問 2014年11月16日
初めまして。ここに書くのは初めてなのですが、思い切って疑問と言うか、悩んでいる点についてのご意見を聞きたいと思い参りました。
今現在、中世ヨーロッパ風のファンタジーを書こうと考えているのですが、巷の同系統ファンタジー小説の世界観は「城に赤煉瓦に石畳に…あと魔法や魔獣が少々」といった感じのものばかりだと思います。
ですが、文化面を少々調べてみた所、中世ヨーロッパと言われる時代の大部分は暗黒時代であり、物凄くアウトローかつカオスで汚らしい状態だったらしいのです。
商業化された小説などにはその辺りの「中世の暗部」が描かれているものが明らかに少ないと感じるのですが、これには何か歴とした意味があるのでしょうか?余りにも一様にネガティブな部分を描いていないのが疑問でなりません。
拙文で解りにくいかと思いますが、ご意見頂けると嬉しいです。
●答え●
先ず『どういう媒体で、だれに読ませるか』ということを意識するべきです。
ライトノベルは(この場で質問されているので、こう仮定します)エンターテイメントです。
退屈で汚い空間で垢まみれのヒロインと恋愛がしたい読者は少数派でしょう。
フケがボロボロ出てくるような主人公が、糞塗れのパリを往くなんて絵面は受けないってことです。
作者の拘りも結構なのですが、読者が「こんなのいらねえよ」と言えば、それまでです。
本を出すのには費用がかかります。そして利益を回収するためには本を買ってもらう必要があります。
そういうことであるので、負の描写が求められない以上、深く突っ込むことはないのです。
リアリティがある、と喜ぶ人もいるかもしれませんが。一部でしょう。
そして中世ヨーロッパを舞台にするのではなく、あくまで古来のロマンスや文学から伝えられた『中世ヨーロッパ風』であることをご理解ください。
中世ヨーロッパ風というのは、史実の中世ヨーロッパとは似ているようで異な世界です。
素朴な農夫たちがいる世界であり、白髭の魔法使いがいて、勇猛な騎士たちはドラゴン退治に向かう、と。
要は中世ヨーロッパのモチーフを幾らか(都合よく)借りてきた西洋ファンタジーということです。
だから中世ヨーロッパをそのまま描写する必要はないし、文化面を合わせる必要もない。
物語の本質に関する意見は様々ですが、商業作品は第一義として、買ってもらった分の満足を読者に与えるべきです。
それに一致しない要素を背景や設定からオミットするのは作家として当然のことで、
そこが史実を重視する人から叩かれる要因にもなるのですが。
単純な話、西洋的な剣と魔法の世界を舞台にしているだけなので、中世という時代もヨーロッパという地域も関係ないってだけです。
このサイトの記事にもありましたが、パリの街は糞尿垂れ流しだったとか平安美女の頭はシラミだらけだったとか、例え史実通りだとしても、そんなこと書いたって誰も得しないから、という理由ではないでしょうか。
読者も別に中世ヨーロッパじゃなくとも、RPGっぽい雰囲気のステージ・箱庭でさえあればよいのだと思います。
それだったら書き手もわざわざ何冊も小難しい本読んで徹底的に考証する必要はなく、適当な人気ゲームの世界観を知っておくだけでも一応対応できます。
まぁ「中世ヨーロッパ」と一口に言っても、具体的に何年ごろのどこの国のことだ、って話ですしね。
大変便利な言葉だと思います。
(1)史実としての中世ヨーロッパをベースとして、そこにファンタジー性を加味した物語。
(2)舞台設定(世界観)のモデルとして中世ヨーロッパのイメージを借りた「異世界ファンタジー」。
スレ主様の書きたい物語は、どちらでしょうか?
>商業化された小説などにはその辺りの「中世の暗部」が描かれているものが明らかに少ないと感じるのですが、これには何か歴とした意味があるのでしょうか?
歴とした意味というよりも、商業化された作品の多くが(2)だということです。
その種の「中世ヨーロッパ風」世界観は、RPGや既成の小説を通じて作られてきた約束事なんですね。エンタメ小説の場合、そういう約束事をはずしてヘタに史実にこだわると、かえって読者に違和感をもたれる恐れがあります。世界観にリアリティを与えるための演出としてなら、ある程度史実を参考にするのも有効でしょうが、こだわりすぎると最悪「作者が知識を披瀝したいだけ」とみなされてしまいマイナスです。
もし、スレ主様が書きたいのが(1)に近い小説だとしたら、それはそれでいいのですが。ただ、ラノベとしては需要は少ないのではないかと思います。
読者の多くは、小説を通して中世ヨーロッパの実像を学びたいのではなく、物語を楽しみたいのではないでしょうか?
こんばんは。ケスウ・ユジン・ヘイテと申します。
ライトノベルにおけるファンタジー小説は、いわゆるヒロイックファンタジーの影響を、強く受けています。RPGのドラゴンクエストなどに代表される、英雄が剣と魔法を使って、悪の存在や敵対者と戦っていく、痛快娯楽作品が主流です。
ディ=キャンプ曰く、
「それは現実逃避小説であり、読者は現実世界を離れ、男は全て強く、女は全て美しく、人生は全て冒険に満ちており、全ての事柄が単純明快である世界へと抜け出す。そこでは誰も所得税だの、落ちこぼれ問題だの、公共医療制度だのを問題にしない」
ジャンルだそうです。
胸に刺さる言葉ですが私はせめて、小説の存在理由がそもそも現実逃避じゃないか、作品の問題提起に対して、内省的な思考を伴う芸術小説でも、根本は同じだと必死に反論してみます。
ヒロイックファンタジーに、リアルな中世ヨーロッパの世界観を持ち込み、叙事詩や騎士道物語の主人公である、古来から人の心を捉えて離さない、英雄の存在を書き綴っていくのも、面白いかもしれませんね。
巷で流行っている「中世ヨーロッパ風ファンタジー」というテンプレートは「似非中世ヨーロッパ風ファンタジー世界」でして、実際の中世ヨーロッパの時代考証も技術考証も何もかも無視してイメージとしての中世ヨーロッパの雰囲気を元にした娯楽作品で、読者は中世ヨーロッパの暗部を読みたいのではなく、物語を楽しみたいから書かれないのではないでしょうか(私見ではそもそも日本の「中世ヨーロッパ風ファンタジー」って、実際の中世ヨーロッパよりも、日本や中国の要素や条件をモデルにした上で、しかも実質的には近世ってのが多い気がしますがね)。
あと上でイメージとしての中世ヨーロッパ風と書きましたが、他の方も書かれていますが、読者の間にはゲームや小説などから、曖昧ですが何となく中世ヨーロッパ風世界観のイメージが広く共有されているのも大きいかも。
それに乗っかる方が作者も数多くの文献を読み考察する必要もありませんし、読者も違和感なく読めますし(まぁ最近はそのイメージを下敷きに作者が拘りたい所はかなり詳しく調べて(経済でも文化でも何でもいいんですが)、新たなスパイスとして加えて作品をより深みのあるものにして、オリジナリティを出している作品が増えてきたと感じますが)。
っと、初心者がまとまりなく何が言いたいのか分からない事を書いてしまいました。
私も作品のリアリティを増すために色々そういう歴史を勉強したりしていますが、やはりあえて無視する部分もあります。
特に当時のヨーロッパの暗部というのは今の日本人からしてみればかなり異常なものでしかないです。
そもそもフィクションであり創作なのに、なぜわざわざそんな暗くて気が滅入りそうな要素を書かなければならないのか、そしてそんな部分を読んで読者が楽しめるかが一番の問題です。
pingさんの好きな中世ヨーロッパ風ファンタジーにそういう暗部が徹底的に描かれていたとしたら、楽しんで読めていたかどうかを考えてみてください。
例えば
・下着は一週間取り替えない。洗濯しない。
・町娘の類はみんな貧乏人、不潔で髪の毛の手入れはされておらず、肌もガサガサ。
・戦争が起これば女性は性欲の対象、男は虐殺の対象
・魔法は目に見えないもので、本来呪いみたいな目に見えないもの(だから魔法使いという職業だって当時は成立していた)
・魔獣なんていない。全ては人間の妄想でしかない(それでも当時は信じられていた)
・病気が治るかどうかは運しだい(正確な病気の治し方が確立されたのは近代に入ってから)
・女性の結婚に自由がない場合もザラ。
・職業選択の自由がない場合もザラ。
・メイドという職業はあくまで使用人。その中には貧しいゆえに盗みを働き、行方をくらましたメイドもザラにいた。
・メイド服は制服ではなく、メイドの側が自ら用意したもの。
エトセトラエトセトラ……。
など、リアルを突き詰め始めたらキリがありません。
はっきりいってしまうと、創作に自由度がなくなるんですよね。
わざわざリアルを突き詰めて創作の自由度を下げて、それでいてフィクションをつくろうなんて、正気の沙汰じゃないと思います。
では、参考になれば幸いです。
僕はむしろそういう暗部を見たいと思う人間なので、近々『純潔のマリア』 という漫画を買おうかと思っていたところです。
しかし、僕のような人間は少数派でしょう。それに、そんな僕でさえ、このサイトの研究室にも書いてあったように、しらみだらけの美少女には拒否反応を起こします。
リアリティを追及するのも作品に対する一つの真摯な態度ですが、それも取捨選択できるのが創作です。
それを楽しく読ませることができるなら、何処までもリアルに書いてみてもいいんじゃないかと。
ただ、小説は文化人類学の本じゃないからなあ。
どこまでを描くのかは、著者・編集・出版社それぞれです。
史実にどこまで忠実に赤裸々に描きたいのかにもよるかと。
敢えてそれらをさらけ出すとしたら、マイナスな印象を持たれるとは思いませんか?
どこまでを面白く思うか、どこまでを良しとするのか次第かと。
ネガティブな部分と思われるのなら、それは描いても読んでいても余り面白くないと思われるかと。
全てを曝け出してこそと思われるのでしたなら、それはそれでご自由に、としか言いようがありません。
人それぞれです。
人は他人、自分は自分です。
限られた情報の取捨選択の一つとして、そう言ったネガティブな部分は割愛すべきだと思われるかと。
中にはそう言ったネガティブな情報を集めてそれすらも舞台装置の一部として活用される作品もありますよ。
ラノベには向いてはいないという事で、割愛される事が多いかと。
あとは、描かないのではなく、そう言ったアウトローかつカオスで不衛生でも対応できる中世の世界としている事も大きいかと。
でないと、現代の常識と照らし合わせた時、読者への説明に終始する物語になってしまうかと。
想像しやすい世界である事が売れる・読まれる第一歩でもあるからかと。
パリなどの悪臭は私も聞いたことあります。ですが、そういう部分ってある程度は無視しても差し支えないんじゃないかなと思いますね。
ファンタジーではないですが、たとえば日本の戦国時代、これをあまりにも文献通りに表現してしまうと夢を壊しかねない可能性も・・・。
大河ドラマなども史実をあまりにも忠実にしてしまいますと、
・命中率が悪すぎる鉄砲隊
・荷物運びにしか使えない馬
・大名の美少年との男色は、たしなみ
・数人倒したら役に立たなくなる刀
・服装バラバラの足軽
・乱暴狼藉、凌辱は当たり前
こんな世界になってしまいます。
腐敗した「ケンシロウの存在しない世紀末」な世界で、登場人物全員が極悪人、なんて作品もインパクトはありそうですけれどね・・・。
> ですが、文化面を少々調べてみた所、中世ヨーロッパと言われる時代の大部分は暗黒時代であり、物凄くアウトローかつカオスで汚らしい状態だったらしいのです。
調べてみたというか、おそろしく古い常識ですね。中世暗黒史観を批判するのが、むしろ過去数十年の傾向です。もうちょっと勉強してゆっくりと考えることをおすすめします。
そのような知識は常識なので、ラノベの世界に導入したらインパクトがあるなんて考えない方がいいと思います。
(pingさんが常識の文脈を読み替えることができるイノベーターであれば話は別です。)
> 商業化された小説などにはその辺りの「中世の暗部」が描かれているものが明らかに少ないと感じるのですが、これには何か歴とした意味があるのでしょうか?余りにも一様にネガティブな部分を描いていないのが疑問でなりません。
歴史的批判は距離を置くからできるのです。歴史学者は現代の衛生観の視点で中世の不潔さを強調できます。
しかし、小説の視点は歴史の中に没入して内部から記述するのです。
その時代の人間がその時代の常識をどうして批判できるでしょうか?
(それが可能なのはタイムトラベルものや異世界訪問ものです。)
都心の新宿でデング熱を発生させているわれわれの文化を、千年後の衛生観で批判したらどういうことになるでしょうか?
『ゲームシナリオのためのファンタジー事典』 によると、
多くの「西洋風ファンタジー」で使われている世界観は近世ヨーロッパに近いと言うことが書いてありました。
そうでなくても、これらの世界は「中世ヨーロッパ」ではなく「異世界」なのですから、多少史実と違っていても仕方ないと思います。ですが、たとえば日本の戦国時代、これをあまりにも文献通りに表現してしまうと夢を壊しかねない可能性も・・・
あのね、ラノベは「娯楽」なの。
「俺もラノベの世界に行きたい! 憧れる!」という欲望を刺激することに意味があるわけ。
中世の暗部を描いたって、売上が向上するどころかただ低下するだけよ。