高貴な人間が諸国をめぐっては、悪代官をこらしめる。
中国の包拯に朝鮮の暗行御使と、黄門様と同類型の物語は、隣国でも庶民の絶大な支持を受けていた―。近代から中世、古代へと、時空を超えた東アジアの歴史の中に「漫遊記」の成立をさぐり、歌舞伎や講談、映画・テレビなど、日本において長く国民的人気を博し続けた謎に迫る、異色の文学研究。
この本で参考になるべき点は以下の通りです。
●長年愛される物語の構造研究
この本最大の特徴がこれです。「高貴な人が身分を伏せ、各地を回り、悪人を退治する」主人公を「水戸黄門の仲間たち」とし、日本のみならず、中国・朝鮮の類似の物語、神話、伝説、史実(特に、始皇帝の巡幸や明治天皇との関係)との関連性を分析しています。
中華風・朝鮮風時代劇調ファンタジーでも使える1冊です。
また、『水戸黄門漫遊記』の成立・定着過程も論じています。
●英雄の出生
日本は少ないのですが、中国を主にして、ヨーロッパと対比させ、英雄の出生時の怪奇現象や試練について、分析しています。
●身分開示アイテム
水戸黄門型の物語だと、最後に身分を明かす必要がありますよね。和風以外の世界観だと、「どうしようか?」と悩んだことはありませんか。また、和風でも印籠を出せば、TBSドラマ『水戸黄門』の「パクリ」との批判は免れないでしょう。
この本には、中国・朝鮮の裁判官・監察官がどのアイテムをもって身分を証明するのかが書かれています。また、傷や瘤といった英雄の身体的特徴も取り上げられています。
●中国・朝鮮の類似物語の主人公官名
中国・朝鮮での水戸黄門型物語の主人公は、現代の裁判官・監察官に相当します。ですので、その官名および任命について一通り書かれています。
●スパイ関係
何に変装するのかや、情報収集の場所、その方法について書かれています。また、芸能者・宗教者とのスパイの関係、権力側による芸能を通じての情報収集・統制についても、触れられています。
私は、中華風ファンタジーの資料として読みましたので、満足しています。しかし、『水戸黄門漫遊記』の成立・定着過程にのみに興味があり、中国・朝鮮に興味がなく、カバーの解説すら読まずに、書名だけでこの本を買ってしまうと、「肝心なところまでより道が長過ぎる」との不満を持つかもしれません。
実際、『水戸黄門漫遊記』と日本の神話、伝説、史実との関係を直接論じたのは、序章・終章を除いて、全9章中、第3章と第7章~第9章ですから。それに、日本の神話・伝説は、中国・朝鮮のものと比べると、印象が薄かったです。
欲を言えば、中国・韓国の演劇の写真が掲載されているのですが、これはカラーにしてほしかったですね。また、朝鮮の監察官が身分を示す「馬牌」(メダル)の写真を載せるのなら、中国の監察官の「金牌」のほうも載せてもらいたかったですね。
創作に役立つ資料やハウツー本などは、個人の力ではなかなか探し出せないモノです(涙)。
そこで、あなたのオススメの創作お役立ち本を紹介してください!
ご協力いただける方は、こちらのメールフォーム
『創作お役立ち本募集係』 よりお願いします。