レヴェトリア空軍のエースパイロット・クラウゼは、ある日突然、“内戦解決の切り札”とされる重要人物の補佐を命じられる。待っていたのは、わずか16歳の少女アンナリーサ。彼女は名門ラムシュタイン家のお嬢様で、国の最高学府を11歳で卒業した天才なのだという。
「戦争なんてすぐに終わらせてあげるわ」ワガママ放題の“小さな魔女”が巻き起こす様々なトラブルを前にクラウゼは、無事に彼女の騎士を務め上げることができるのか?そしてアンナリーサは、本当に戦争を終結させられるのかー?
“ワガママ魔女”と“ヤサグレ狐”が織り成す、現代の御伽噺。
空戦物と技術開発競争を軸にした、架空の世界での近現代風戦争小説です。
ラノベの範疇で硬派に戦争を描いていて、「これはラノベとして読むのに最適な戦争物なのではないか」と読後深く感動したものでした。
作者の方が述べておいでですが、この作品は『戦争における「人殺し」の心理学』 という書への疑念と、その回答を骨子に描かれています。
上記の資料の中で、人は同属を殺すことに強烈な抵抗感があると指摘されている。この事実に、しかし作者の方は、
「そんな特質がありながら、どうして人類は戦うことをやめられないのか?」
という根源的な疑問を覚え、その作者なりの回答を一つの作品に仕上げた、ということです。
一つの主題に根ざして、戦争という大きなテーマを描く。それもラノベとして平易な形式に落とし込んで。脱帽するほかないところです。
とまあ、こう書いてしまうととてもしかつめらしい作品に見えてしまいますが、再三いいますように、この作品はラノベの範疇です。
ボーイミーツガール形式で様々なヒロインが登場しますし、ストーリーも随所で戯画化されていて読んでいて楽しいものです。
恋愛物としては甘さ控えめですが、それもまたむしろ日本的な淡さがあってなかなか味わい深い。
むしろ、ただのやりとりが深化していく過程に、正統派の恋愛物の気風を感じます。
キャラもそれぞれきちんと描かれていて、独創的とはあまり思いませんが、それぞれがそれぞれで活き活きしていて印象深いところです。
そして、結末もなかなかぶっ飛んでいて、これもまたラノベらしい。
一般の戦争物では許されないところかもしれませんが、読後感に爽やかな心地の残るいい結末です。
長くなってしまいましたが、熱く語って下さいと指示があったので、ご容赦願いたい。
私が買ったのはごく最近で、発刊から二年が過ぎてまだ初版と世評はそれほどでもないようですが、個人的には超おススメしたい一作です。
お気に入りのキャラはいますか? どんなところが好きですか?
ほぼ全員好きですが、あえて挙げれば主人公のクラウゼ。タイトルでいう空飛ぶ狐、戦闘機パイロットです。
人殺しに厭いて、やさぐれてしまっている彼が、この物語を通じて成長する。そうした成長が作品では描かれています。
彼に感情移入しながら小説を読むわけですが、彼の苦悩や、諦念や、自嘲が変貌を遂げる終盤、なんともいえぬ喜びがありました。
端的にいえば、戦闘機の機銃の射線をずらした彼の選択は尊かった。その後の彼の言葉こそが、作者の回答なのでしょう。
この作品の欠点、残念なところはどこですか?
私は文系人間ですが、そんな私からしても、この作品の科学的な解説にはふわっとしたものを感じました。
その点は欠点として挙げられるところでしょう。言い換えますと、あくまでラノベ。
しっかりした理系の方は、もしかすると我慢ならないかもしれないと危惧しています。
またこれは欠点ではないですが、戦争物ですから当然人死にが多数出ます。
そうしたものが苦手な人は注意しなければならないでしょう。