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風の白猿神―神々の砂漠 柊 木冬さん一押し!(女性・18歳)
人類と〈機械知性〉とが死闘をくりひろげた〈聖戦〉から百年。 地球の三分の一をおおう砂漠の中に、その少年はいた。 古城宴。 九年前、謎の壊滅をとげた東京シティの生き残り。 現在は“大槻キャラバン”の一員として戦闘空母“箱舟”に乗り込んでいる。 彼は今、仲間の少年たちとともに船を離れ、聖戦時の遺跡の発掘をしていた。 作業用アームの先がなにか硬いものに当たる。 丸いシルエット。“神格匡体”だ。 人の想像力を現実の力にかえ、神話の神々を地上に顕現させる究極の兵器―。 宴たちは期待と畏れに躍る胸を圧さえ、慎重にその白い匡体を掘り出していく。 それが白猿神ハヌマーン、そして謎を秘めた少女シータとの出会いだった…… 吹き抜ける風は熱く乾き、雷鳴は波乱を告げて轟く。少年よ、今こそ旅立ちだ。 選考委員大絶賛のSF冒険ロマン。 第六回ファンタジア長編小説大賞受賞作。
『隠れた名作』というのなら、絶対に外せない作品だと思います。 何しろ『必ず完結した作品を送らなければならない』というルールのあるこの賞で、 数々の謎と伏線を未消化のまま残しているにもかかわらず、 大賞を受賞してしまったのですから。 これが何を意味するか。そのことは一つです。 ――この作品には、それに足るだけのパワーと面白さがあるんです。 なーんてったって神格筐体ですよ! 神格筐体! 遠い未来の砂漠で、古代の神々が熱い戦いを繰り広げるんですぜ? まあ正確には神の姿をしたロボットみたいなもんですが、本当は。 例えばインドラVSスサノオとか……ああ、とにかく読んでみてください。はまれます。 また魅力的なキャラクターたちも忘れちゃいけません。 壊滅した東京の生き残り、主人公・古城宴。 神格筐体ハヌマーンの中で眠り続けていた記憶喪失の少女、シータ。 大槻キャラバンのトップ・シンカーにして宴の師匠的存在となる、 魅惑のおねえさまリーン=デューハースト。 宴の親友(悪友?)祐太と忍。 キャラバンの統率者にして、一見昼行灯、しかし能ある鷹は爪隠すを地でいく大槻守正。 大槻キャラバンの前に敵として立ちはだかり、神格筐体『スサノオ』を駆る焔光院香澄…… これらの魅力的なキャラクターの軽妙なやりとり(時にはかけあい漫才)は必見です。 あなたが気に入るキャラクターがきっと一人はいるはずと信じます。 この作品に唯一欠点があるとしたら、それは続編が出ていないことだと思ってます。 いつか続編が出ると信じてもう何年待っていることか……! もともとライトノベルをあまり読まない私が、 唯一『これなら押せる』と考えている良作です。
涙を呑んであえて選ぶなら、強さと激しさと哀しみを秘めて戦う女傑・焔光院香澄。 彼女の魅力をつらつらと語るより、この台詞を引用するほうが早いでしょう。 「世界は悪意で満ちているのさ」 ――ぜひ、作品の中で彼女に会ってみてください。
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神語りの玉座
突然隣国から宣戦布告されてしまったセレティス王国。 世継ぎの王子セフィオは国を救うため、大国エスウェンと密約を結んで対抗しようと、 密使として現れた謎めいた美少年アディスと共にエスウェンへと脱出する。 だが旅の中、様々な障害が二人に襲いかかってきて―!? 「おれは、おまえの生涯の友たることを誓う!」 かけがえのない絆で結ばれた、少年達のヒロイック・ファンタジー。
すぐに「BLだ!」と決めつけてしまう方々、とんでもありません!! 少女レーベルで綴られる男同士の友情は、 ときに男性レーベルを上回るほどの力を持つ良作が多く存在します! この『神語りの玉座』はまさにそういった作品のひとつ。 三部に渡って語られる人間と神々の物語は、ときに崇高でときに泥臭い、 壮大なヒロイック・ファンタジーです。 イラストはあの『マリア様が見てる』のひびき玲音先生です。 「俺は、おまえの生涯の友たることを誓う!!」 このキャッチコピーで世に出された、ビーンズ大賞奨励賞受賞作である本作品は、 「男同士の友情・固い絆」を全面に押し出しています。 ときに不安や疑心を抱きながら、最後にはお互い協力し合って悪を滅ぼす主人公たち一行は、 のちのち英雄と語り継がれるほどの働きをすることになります。 が、語り継がれることになる伝説の道中は、意外にもギャグや笑いにあふれています。 作品自体はどこか暗い雰囲気なのに、 それを忘れてしまうほど馬鹿っぽいやりとりが何度も交わされているのです。 もっと深刻になっていいはずなのに、この明るい珍道中はなんなのだろう…… と思わず笑いを誘われるほどです。 もちろん物語が進むにつれ深刻な場面は増えていきます。 あわや主人公たちが死にそうになる場面はもちろんのこと、 国が滅びそうになったり戦争が起きたり、 三部作とは思えないほど濃厚な戦闘シーンも次々飛び出してきます。 他にも民俗間における差別問題などの暗い要素が潜んでいます。 それらすべてを処理する形で、最後にはハッピーエンドで幕が引かれます。 あれほど色々あった負の要素がすべて最高の形で落ち着いていて、 全体的に「ヒロイック・ファンタジーとはこうでなければならない」 というお手本のような作品となっています。
作中ではアディスと呼ばれる彼は、黙って座っていれば普通にイケメンで恰好いいのに、 ときに天然で味覚が異常という欠点を持っています。 そういうところが笑いを誘ってとてもいいのですが。
世界観・設定・テーマ、どれをとっても素晴らしいぶん、 たった三巻で終わってしまったというところがファンとしては悲しいです。 もっともっと彼らの冒険を見てみたかったと思います。
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