たこわさびさん一押し!(男性)
少女はあくまで、ひとりの少女に過ぎなかった…、妖怪じみているとか、怪物じみているとか、そんな風には思えなかった。―西尾維新、原点回帰にして新境地の作品。
だが僕は見てしまった。唯一見てしまった。その子が横断歩道の向こう側で、プレイしていたゲームを、ちゃんとセーブしてから、友達のところに駆け寄ったのを見てしまった。
目撃してしまったのだ。
これがUと僕の出会いである。
(本文より)
三十歳の多忙な小説家である「僕」。その創作力のルーツとなった十年前のある「事件」についての述懐、という形で物語は進んでいきます。
軸となる少女「U」は、明らかに異常な存在として「僕」の前に、そして読者の前に強烈な印象を与えつつ登場。
なんとこの少女、一緒に歩いていた(ゲームをしながらですが)友人がトラックに轢かれて即死したというのに、直前までプレイしていたゲームのセーブをきっちりと済ませてから駆け寄るのです。どう考えてもおかしい。
その一連の流れを「僕」に見られたと気づいた彼女は、その異常性を裏切らない行動に出ます。
「僕」はその被害(読み切った今となっては、被害と表すのがためらわれるような、奇妙な切なさがあります)に遭う、すなわち「事件」に入り込んでいくことになるのですが……。
なぜ「U」はあのような行動に出たのか。
なぜ「U」は異常なのか。
なぜ「U」は不十分なのか。いやそもそも、何が不十分なのか。
長い「事件」の末に明かされる真実、そして「事件」そのものの顛末は、人によってはあまりにシンプルなものと感じるかもしれません。しかしながら、私はそのシンプルさにこそ心動かされずにはいられませんでした。
十年前の日本のどこか(たぶん京都)で、「U」は独り唇をかみしめながら「僕」のことを待っていたのではないか。そう考えずにはいられないのです。
濃密な文章で描かれる「U」と「僕」の関係は、一読の価値ありだと思います。
※ジャンルはミステリーとしましたが、実は自分でもジャンルがよく解らないので便宜的にそうしただけです。
お気に入りのキャラはいますか? どんなところが好きですか?
キャラ自体が少ないのですが、やはり「U」ですね。
印象的な登場から「事件」の最後まで、不気味さ、怖さ、異様さ、危うさ、そして可愛らしさや哀しさなどをごっちゃにしたような圧倒的な存在感を持って、読者を魅了してくれます。
あと、小学四年生なところが……え? ロリコン?
表紙のイラストも素晴らしいと思います。この作品を一発で表しています。
この作品の欠点、残念なところはどこですか?
文章です。
「僕」の一人称視点で話は進んでいくのですが、述懐という形でもあるせいか、ところどころでの「僕」の心理描写・思考の説明が非常に細かいです。話のリアルさを演出するために一役買ってもいるので一概に欠点とは言えないのですが、単純に「読むのめんどくせえ」となることも多いでしょう。
ライトノベルとしては読みにくい部類に入る気がします。
また、上でも述べたように、展開としてはシンプルな部類に入ると思うので、物足りなく感じるかもしれません。