ライトノベル新人賞受賞者約20人に話を聞いて、彼らにある共通点があることがわかりました。
彼らは平日、休日問わず、毎日、小説を書いていると答えたのですが、だいたい1日何時間くらい書いていると思いますか?
答えは、2~4時間です。
3時間と答えた人が多かったですね。
休日は、一日中ずっと書き続けているという人もいました。
例えば、第七回スーパーダッシュ小説新人賞佳作を取った、弥生翔太(やよいしょうた)さんは、大学から帰宅しての深夜、午後十一時から午前三時くらいまでを執筆時間に当てていたそうです。
15回スニーカー大賞 ザ・スニーカー賞を受賞した春日部タケル(かすかべたける)さんは、会社から帰宅しての就寝までの2~3時間執筆していた、休日は、ゲームなどを挟みながら終日だらだら書いていたと答えています。
一番すごかったのは、ゲームのシナリオライターから出版社に声をかけられて兼業ライトノベル作家になった、くしまちみなとさんです。
起きていて水場とベッドに近づかない時間は全部創作に当てているそうです。PCに向かっている時間は他の仕事がある日は1~2時間。お出かけしない時は16時間くらいは書いているそうです。
実は、プロ作家になれる人というのは、「小説を書くことの優先度が、一日の生活の中で非常に高い」のです。
気が付くと小説を書いている、というような人ですね。
『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう』という本の著者マーカス・バッキンガムは本書の中で、「才能とは、無意識に繰り替えされる思考、感情、行動のパターンである」と答えています。
つまり、放っておいてもやってしまうこと、やらずにはおれないこと、というのが才能の正体です。
もっと細かく言うと、才能というのは、次の3つの要素に分類されます。
・欲求
その対象が好きかどうか?
・成長
その対象が得意かどうか?
・実績
目に見える実績を残しているか?
この3つの中で、一番大切なのは、どれだと思いますか?
答えは、もうすでに言っちゃってあるので、わかると思いますが「欲求」です。
小説を書きたいという欲求があって、実際に書いていれば、歩みは遅くとも「成長」し、そのうち、新人賞受容という「実績」に結びつきます。
例えば、第6回GA文庫大賞前期(2013年)において奨励賞を受賞した広岡威吹(ひろおかいぶき)さんは、100本以上の新人賞に落選しても諦めなかった結果、プロ作家への切符を掴みとりました。
彼は、「才能のなさにかけては落選百本は伊達じゃないです。 でもようやく及第点に至ったようです」と自身のブログで語っています。
他にも、第13回日本ファンタジーノベル大賞を受賞した粕谷知世(かずやともよ)さんがという人がいます。
彼女は、13年にも及ぶ長い投稿生活の末、『クロニカ』という作品で大賞を受賞し、作家デビューを果たしました。
このような例え評価されなくても小説を書き続ける力というのは、プロになってからも重要な資質となります。
以前、50冊以上小説を刊行している女性作家、みかづき紅月(みかづき こうげつ)さんにお会いした時に、
「新人賞を受賞して作家デビューしても、一発屋で消えてしまう人が多いのはどうしてでしょうか?」
と質問してみたのですね。
すると、
「それは単に本人が書けないのが原因です」
という答えが返ってきました。
みかづきさんによると、次の本が出せないのは100%本人の責任だそうです。要するに書けないだけだそうです。
プロに成ると読者の期待に答えなければならない、失敗したら使ってもらえなくなるというプレッシャーがかかるので、その中で書き続ける、というのは実際にはかなり大変なことなんですね。
アンパンマンの作者やなせたかしさんは、漫画家の西原理恵子との対談の中で、次のように述べています。
僕は漫画がずーっと売れなくてね。「アンパンマン」も50歳過ぎてからですから。それでも、ずっと書いていました。家に閉じこもって、何の目的もなく書いていた。ダメになる人を見ていると、書いていない。書かずに理屈ばかり言っている。売れなくても時間があれば、そのぶん書けるじゃない。だから「仕事が来たら書く」というのはダメなんだ。来なくても書いていなきゃ。
引用・毎日かあさん 3 背脂編 西原 理恵子/著 毎日新聞社 2006年4月刊行
また、日本を代表する文豪、夏目漱石は、芥川龍之介らを始めとする若い門下生に晩年、次のような言葉を贈っています。
どうぞえらくなってください。しかし、あせってはいけません。牛のようにずうずうしくすすんでいくことがだいじです。牛になることはどうしても必要です。わたしたちはとかく馬になりたがるが、牛にはなかなかなりきれないのです。根気です。世の中は根気の前には頭をさげますが、火花は一瞬で忘れてしまうでしょう。牛のように、うんうん死ぬまでおすのです。なにをおすかというと、人間をおすのです。
小説家・夏目漱石
何か難しいことを言っていますが、要するに、功を焦るより、根気を持って続けた方が大成するということです。
小説を書くこと、書き続けることというのは、デビューするためにも、プロとして活動し続けるためにも、成功するためにも、絶対に必要なことなのですね。
それでは、一体どれだけの時間を執筆に費やせば、才能が開花すると思いますか?
とにかく続けていれば成功できると言われても、どれだけ続けていいかわからないと、イヤになってしまいますよね。
実は、才能を開花させるために必要な訓練時間というのが明らかになっています。
それは、何時間だと思いますか?
マルコム・グラッドウェルの著書『天才!成功する人々の法則』によると、作曲にしても、スポーツにしても、小説にしても、技術が必要なものについての最低限の練習量は「一万時間」である、そうです。
グラッドウェルはその著書の中で、天才と言われている人たち、マイクロソフトのビルゲイツやビートルズを例にあげ、「彼らが成功したのは、デビュー前に一万時間の壁を突破できる環境を与えられていたからだ」としています。
他にも漫画の神様と呼ばれる手塚治虫は、終戦直後の1946年、18歳の頃に『マァチャンの日記帳』で漫画家デビューするまでに、3000枚にも及ぶ漫画原稿を描いています。戦時中、彼は大阪にある工場で働かされていましたが、工場の片隅に隠れて漫画を描いていたそうです。
第二次世界大戦の開戦が迫ると、漫画はふまじめな物として規制され、『のらくろ』のような人気漫画までもが開戦前に消える中、その流れに逆らって描き続けたのです。
手塚治虫もデビュー前に一万時間の訓練時間を突破していたから、その後の躍進があったのだと考えられます。
一万時間に達するためには、毎日、八時間訓練に費やして約三年半ほど、毎日三時間ずつ訓練するとすると9年以上かかります。
ラノベ作家になった人たちは、毎日3時間は執筆に費やしていましたが、高校生の頃からこれを始めていれば、二十代の半ばくらいには才能を開花させられる計算になります。
こんなに長く訓練してられねーよ、もっと早く成功したいよ! ということなら、長編小説を完結させることをオススメします。
以前、フリーのライトノベル編集者さんに会って話を聞いたことがあるのですが、小説の腕を上げるために最も効果的なのが、「長編小説を完結させること」だそうです。
漫画家を目指す若者に都内で低家賃のシェアハウスを提供し、漫画家育成支援をしているNPO法人『NEWVERY』の代表・山本繁さんという人がいます。
山本さんが、漫画家や漫画編集者に会って話を聞いたり、漫画家デビューした支援者に接してきた結果、だいたい10作品を仕上げたくらいでデビューしているのがわかったそうです。
「ぼく、漫画家になれますかね?」
という若者に対し、山本さんは、
「うーん、10本完成原稿を描けたら漫画家になれると思うよ。今まで何本描いた?」
と答えるようにしているそうです。
とにかく下手でも良いから一作品を描き上げると、腕がメキメキ上がるのですね。これは漫画家の話なので、小説の場合は何本くらい仕上げればデビューに結びつくかはハッキリとはわかりませんが、完成原稿という実績を積むことで成長してくという点は共通しています。
SF作家スタージョンは以下のような格言を残しており、創作版パレートの法則などとも呼ばれています。
「SFの90%はクズだ……だが、残りの10%はそのために死んでもいい位である」
この言葉の意味するところは、10%の傑作を生み出すためには、90%の失敗作や試行錯誤の過程が必要だということです。誰でも10作品作れば、その過程で上達し、傑作を作れる可能性が上昇していきます。
小説家を目指す人にはナイーブな人が多くて、僕のサイトには、「処女作を酷評されて自信を無くしました」という悩み相談が多く寄せられるのですが、処女作が失敗で終わるのは、むしろ当たり前です。
例えば、漫画ドラゴンボールの作者、鳥山明は、修行時代、500ページものボツ原稿を量産していました。目の前で編集長に原稿をシュレッダーにかけられたこともあったそうです。しかも、それだけの努力を積んだのにデビュー作のアンケート結果は最下位でした。
天才と呼ばれた人でも最初から、なんの障害もなく成功した訳ではないのです。
自分に才能が無いなどと決めつける前に、とにかく10作品作ってみましょう。
また漫画家やライトノベル作家には一発屋が多いのには、もう一つ理由があります。実は、彼らは、たまたま運良く傑作が一本作れたのです。
私の知人にソーシャルゲーム業界で働いているゲームプランナーがいるのですが、彼の話によると「20個ゲームの企画を考えて、1個ヒットしたら良い方」だそうです。
この話をたまたま知り合いになった起業家に話したら「そんなのは才能がある強打者の話だ。アイディアは100個考えたうちの2、3個が使い物なれば良い方だ」と言われました。
20本作品を作って1本ヒット作ができればラッキーということは、一発屋はその一本が、たまたま一番最初に来た人、と言うことができます。
知り合いのライトノベル作家に、処女作でいきなり作家デビューしてしまった人がいるのですが、ラノベのことなどまったくわからなかったので、プロと言われても困り果てたそうです。編集者に言われた通りに二作目を作ったのにこれがまったく売れず、その後、長い間、日の目を見ない時期が続いたそうです。
いきなり良作が作れたということと、良作を作り続けることができることとはイコールではないのです。
むしろ、まぐれ当たりが一番最初に来てしまうと、一万時間の訓練時間に達していないので、次回作は失敗する可能性が高くなります。
アニメ制作会社ガイナックスの創始者である岡田斗司夫さんは、成功には理由がないが、失敗には理由があると述べています。もし、こうすれば成功するという理由や法則があるのであれば、成功者にインタビューしまくっているビジネス書を刊行している出版社の社員は、全員、ビジネスで成功しているはず、というのが彼の論です。
成功者は運良くたまたま成功したというのが真実なのです。
しかし、これをしなかったから失敗した、これをやってしまったから失敗した、という失敗の理由や法則は存在しているので、失敗から学んで、これを避けるようにすることが、成功の確率を高めるのです。
勉強や訓練というのは、ミスをしない、失敗しない確率を高めるために行うもので、この知識や技能を身につけたから必ず成功する、といったことを約束するものではありません。
例えば、どんなにルックスを磨いて、トークの技術を身に付けても、意中の女の子を彼女にできるとは限りません。相性やライバルの有無、タイミングなどの不確定要素が多いので、イケメンになることで成功の確率を高めることはできても、必ず成功するとは限らないのです。
漫画のキャラですが、世界最高の暗殺者であるゴルゴ13は、プロにとって最も必要なのは努力でも才能でもなく「運」だと述べています。
どんな人生を歩むか成功するか否かは、最終的には「運」に関わってくるのですね。 そして、実は「運」を高める方法があるのですが、それは何だと思いますか?
宗教に入る? 占い師を雇う? いいえ……
それは、「数を打つこと」です。
10本原稿を完成させればプロになれるのであれば10本作れば良いし、20本作品を作って1本ヒット作ができるのであれば、四の五の言わずに20本作れば良いのです。
成功できるか否かというのは要するには確率論なので、数を打てば打つほど、成功する可能性は高まるのです。
ライトノベル界のトップレーベルである電撃文庫の戦略も「数を打つこと」です。
電撃文庫は70人を越える作家を常に抱え、月の刊行点数が10点を超えるほどの大量の作品を市場に放出し続けています。
さらには、『キノの旅』(2000年刊行)のような一般文芸と童話の中間のような作品や、『撲殺天使ドクロちゃん』(2003年)のような破壊的ギャグの問題作、『魔法科高校の劣等生』(2011年)のような膨大な設定を書き連ねたオンライン小説まで取り上げて市場に放り込み、その中で勝ち残った作品を育てています。以上の作品はすべて、時代の流行から外れた、出版する際には冒険的だったにも関わらずヒットを飛ばした作品です。
業界第2位の『MF文庫J』が「萌え」と「ラブコメ」という、流行を読んだ売れ筋路線に特化して成功したのとは対照的に、電撃文庫は「数」と「多様性」「失敗を恐れぬチャレンジ精神」で、躍進を遂げたのです。
「失敗要因の排除」と「数を打つこと」は、すべてに通じる王者の戦略です。
一人の女の子に告白して振られたとしましょう。
しかし、ダイエットして、服に10万円をかけて、高級な美容院で髪をセットしたルックスで、20人の女の子に告白したら、誰かがOKしてくれるでしょう。恋愛最大の敗因とはルックスであるため、これをクリアした状態で数を打てば、必ず成功するのです。
電話での営業も、営業トークを磨いて、数を打てば、誰かが契約してくれます。
なにより、数を打てば、それだけ実戦での試行錯誤が積み上がっていくので、否が応でも技術が向上し、ますます成功の確率が上がっていきます。
この数を打つために必要なのが「小説を書きたいという欲求」なので、結局、小説を書くことが誰よりも好きな人間が、最終的には勝つのです。
「欲求」の強い人間こそ、才能のある人間なのです。
アンパンマンの作者やなせたかしさんは、次のように述べています。
ボクは何をやらせてもおそいし、頭もよくないから、普通の人が三日でわかることが三十年ぐらいかかってやっとわかったりします。
いまでも勉強している事がありますが何年やってもほんの少しも進歩しないのでおかしくて笑ってしまいます。
アンパンマンも絵のほうのこともそんなぐあいにして超ノンビリ超スローモーションでやってきましたが、年月が経ってみるとそれなりの足跡ができていてボクよりもはるかにはやくとびだした人たちがもうリタイアしているのを見ると、自分はあんまりきらめくような才能に恵まれなくて良かったなと思うこともあります。
引用・『もうひとつのアンパンマン物語』1995年2月刊行 著者・やなせたかし
得意である人間よりも、根気よく続けられる人間の方が、最終的な成功者になるのです。
また、「欲求」とは、不思議なもので、最初は気乗りしなくても、これを気力で抑えて小説を書き始めると、途中からだんだんおもしろくなっていって、いつの間にか、2時間くらいぶっ続けで執筆をしてしまったりするものです。
そして、一作品完結できると、これが自信になって、もっとやってみたい! と「欲求」が強化されます。
好きだから書くのではなく、書くから好きになっていくのです。好きという感情は、のめりこめばのめりこむほど、うまくできればできるほど強くなっていくのです。
なので、最初から、小説書くの超大好き! これが無いと死ぬ! というレベルでなくても、構いません。
毎日、書くことを習慣付け、これを崩さないように努めればOKです。
もし才能を開花させたい、成功したいのであれば、「気乗りしなくても、とにかく数行書く」を日課にしてみてください。
超ノンビリ超スローモーションでも、ずっと続けていれば、いつか、やなせさんのように才能を開花させられる瞬間が来るはずです。
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