才能を伸ばすのに必要なのは褒められることです。
褒められるとうれしいので、才能の三要素の一つ「欲求」が強化されます。
またやりたい、続けたいという気持ちがおきるため、「実績」が作れて「成長」していくのです。
現代社会(2012年段階)で、仕事のモチベーションが続かずに鬱病になって休職してしまう人が多いのは、他人から褒められないためです。
仕事は「やって当たり前」「できて当たり前」「要求された以上のことができて一人前」という価値観が支配的であるため、多くの人は限界以上の働きをしても評価されず、仕事の「欲求」を継続させることができないのです。
このため、部下や後輩などをうまく褒めて仕事の生産性を高めよう、といった自己啓発本が多数、刊行されています。褒められることで「欲求」が高まれば、仕事の質(実績)も自然と向上するという訳です。
文学の世界では、大正時代、無名の新人だった芥川龍之介は、夏目漱石に短編小説『鼻』を絶賛された(1916年2月19日付の手紙で)ことから、小説家としての道を歩んでいくことを決意しています。
芥川は、その前年に名作『羅生門』を発表していますが、文壇から無視されました。まったく話題にものぼらなかったのです。おそらく東京帝国大学の生意気なインテリ学生が書いたライトノベルくらいに思われてしまったのでしょう。
芥川は、このままではいくら努力しても小説家として名を挙げることはできない、と危機感を抱きます。
そこで夏目漱石の門下生であった林原耕三の紹介によって、文豪として高い名声を得ていた漱石に弟子入りし、彼に引き上げて貰おうとしたのです。
「天才は天才を知る」という言葉があるように、漱石は芥川の作品を読んで、その才能を見抜きました。
これによって、芥川龍之介は夏目漱石の後継者と目され、一気に注目を浴びる存在となったのです。
このできごとは、芥川にチャンスを与えただけでなく、小説家として生きていく上での大きなモチベーションになっています。
逆に、おそらく才能を持っていたのにも関わらず、批判されて小説家への道をあきらめてしまった人もいます。
夏目漱石の親友で、俳句の革新を成し遂げた新聞記者の正岡子規です。
帝国大学国文科の学生だった子規は、一時期、小説家になることを夢見て『月の都』という作品を書いて、尊敬する作家の幸田露伴(こうだろはん)に見てもらいますが、駄目出しされたため、イヤになって挫折しています。
子規は漱石の書いた文章を批評、添削していた上、名作『吾輩は猫である』の発表の場となった『山会』を組織していたくらいなので、教養、文章能力といった点に関しては、凡百の作家を上回るモノを持っていたのでしょうが、批判されたことで、小説家への道はあきらめてしまったのです。
そのおかげで、俳句一本に道が絞れたので、結果オーライだったと言えますが。
ところで、私は「褒められると才能が伸びる」「批判されると才能が枯れる」といった情報を真に受けて、初心者が書いた作品をみんなで褒めるための「初心者の間」という小説投稿室をサイト上に開設していたことがありました。
しかし、この投稿室は、まったく何の努力もせずに適当に書いたとしか思えない「褒めるところが見つからない」作品ばかりが集まったため、すぐに閉鎖しました。
努力の痕跡がうかがえる作品や、努力しようという姿勢が見える作者であれば、応援し、褒める人が現れますが、「努力はしたくないけど褒めてね」という姿勢の作者には、褒める人など現れません。無理矢理褒めたところで、努力してないのは作者本人が一番わかっているので、お世辞であることがバレバレで、ちっともうれしくない。逆に「褒め殺しかよ?」と疑ってしまうことになりかねません。
努力を放棄している人とは、元々、その分野における「欲求」が弱い、イコール「向いていない人」なので、褒めるという欲求強化の刺激を与えたところで、効果が小さいのです。
そこで得た教訓は、
・褒めてもらうため最低限の礼儀、条件とは「クオリティアップの努力」。
・褒められたことで得られる『欲求』強化の効果は、元々持っていた『欲求』の強さに比例する。
・批判されても元々の『欲求』が強い人は書き続ける。批判されて辞めるのは向いていない証拠。
という単純明快な心理です。
そこに情熱をかけていることが垣間見られなければ、誰もまじめに応援しようなどとはしてくれません。
この礼儀がわかってない人は、感想を述べる人をどこまでもゲンナリさせます。
もし才能を開花させたいのなら、自分に出来る最大限の努力してみて、その上で信頼できる人に作品を見せて、長所を言ってもらうのがベストです。
努力して作ったモノなら、なにかしら良いところがあるはずです。
そこを探してもらうのです。
芥川龍之介のように自分を無視する人たちではなく、自分を理解し、褒めてくれる人のところに行きましょう。
ネット上の小説投稿サイトなどに作品をアップして、褒めてもらうという方法もあります。
ただし、赤の他人に褒めてもらおうとするならば、批評する側に好感を持たれなければなりません。
参考に、当サイトの小説投稿室で取ったアンケート「どんな作者に好感を持ちますか?」の上位三項目を掲載します(2012年6月14日段階)。
ここからわかるのは、「批評したら感謝してくれる人」、「他人の作品も正しい目で批評する人」、「自分を高めようとし続ける人」に、批評する人間は好感を持つということです。
好感を持たれれば、褒められることが多くなるので、そいった作者は才能を伸ばしやすくなります。これはネット上だけでなく、リアルの場でも応用できることです。褒められるのをただ待つのではなく、褒められやすい状況を作る、褒められる場所に身を置くのです。
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