魅力的なキャラクター作りの秘訣とは、自分の欲望に忠実なキャラにすることです。
欲望とは、なにか実現したい目的があり、その実現に向けて行動するエネルギーの強さをさします。
例えば、少年ジャンプの人気漫画『ONE PIECE』の主人公ルフィは「オレは海賊王になる!」と公言し、最も危険な航路に海賊王の秘宝を求めて旅立ちます。
他の人間から、その夢を馬鹿にされたり、笑われたりしても、決して夢を諦めることがありません。
自分の欲求を素直に表現し、その実現に向けて突き進む姿は、生命力に溢れています。
また、その実現のために、たくさんの人間を巻き込んだり争ったりするので、自然とそこにドラマが生まれます。
ストーリーの本質とは、人間同士の欲望のぶつかり合いです。
欲望というとネガティブなイメージがありますが、友情や正義、愛のために命をかけるのも欲望です。
ルフィは友情になにより価値を置いており、自分を裏切った仲間を救うためにさえ、身体を張って行動します。
このようにキャラクターは極端な性格にし、その行動は常軌を逸したレベルにするのが、おもしろい物語作りのコツとなります。その方が、他者と激突しやすくなり、トラブルも連続し、キャラクターの性格も印象に残るからです。
そんなキャラクター作りの参考になるのが、ギリシャ神話です。
物語の原典だけあって、ギリシャ神話のキャラクター設計は、現代のライトノベルのキャラクター作りの要点となるポイントを押さえています。
例えば、ライトノベルには、特殊な能力を持った少年少女が登場してきますよね。
炎や植物を操ったり、時を止めたり、どんな武器でも使いこなすといった超能力の類です。
この能力とは、ただなんとなく付けたり、とにかく物珍しいモノにするのではなく、
そのキャラクターの性格を反映し、象徴するような能力、ストーリーで重要な働きをするように設定するのがポイントです。
例えば、ギリシャ神話に登場する美と恋の女神アフロディーテは、恋することを何よりも生き甲斐とし、自分の美に絶対の自信を持つ女神です。
彼女の能力は「人間の恋愛感情を操る」という、なんとも強力で、うらやましいものです。
そんなアフロディーテは、ヘラ、アテネというこれまた美しいことで評判の女神たちと、だれが一番美しいか競い合うことになります。
ヘラは大神ゼウスが正妻に選ぶほどの器量を持つ最高位の女神、アテネはゼウスの娘で知性と戦いを司る高潔な処女神です。
三人の女神は、この美の裁定者をゼウスに頼みましたが、ゼウスは妻と娘がどれほど恐ろしくトンデモナイ女か知っていたため、争いに巻き込まれるのを恐れて、その役をトロイアの王子パリスに押しつけます。
パリスは自分が最も美しいと思う女神に金のリンゴを手渡すことで、判定を下すことになります。
アフロディーテは、美の女神の誇りにかけて万が一にも負けることを恐れ、パリス王子に
「私を選んでくれたら、人間界一の美女ヘレネを妻にしてあげるわ」
と賄賂をもちかけます。
これにパリスは応じて、アフロディーテに金のリンゴを渡しました。
ヘレネはすでにスパルタ王メネラーオスに嫁いでいましたが、アフロディーテはその能力を使って、ヘレネにパリスに恋をさせ、パリスは彼女をさらって妻にしてしまいました。
これに激怒したメネラーオスがギリシャ中に檄を飛ばしたことによって、10年にも及ぶトロイア戦争が起きました。
この逸話のポイント
・欲望、アフロディーテは、最も美しい女神の座に付きたかった。
・能力、恋を成就させる能力を使って、パリス王子に取引を持ちかけた。
・結果、一人の美女を巡って大戦争が起きた。
アフロディーテの美に対する執着心と、自己中心さがよく現れており、彼女のキャラを際立たせています。
また、その性格と能力がストーリーを発展させるために役立っています。
天界の美女決定戦が、地上の美女争奪戦に繋がるという流れの根底には、美が人間を狂わすというテーマがあります。
戦争に勝ったメネラーオスは、争いの原因となったヘレネを殺そうとしますが、その美しさに再び心を惑わされ、以後、二人で仲むつまじく暮らしたそうです。
ただ無意味に美形や美少女を出すのではなく、美しいというキャラ設定が、テーマやストーリーにちゃんと組み込まれているのです。
ギリシャ神話は時代を先取りしており、妹萌えも完備しています。
古代ギリシャ人に言わせれば「妹萌えなど、既に我々が2000年前に通過した場所だッッッ!」といったところでしょうか。
妹萌えのコツもやっぱり、現実離れした極端な行動を取らせることの一言に尽きます。
太陽神アポロンと月の女神アルテミスは非常に仲の良い兄妹でした。
アルテミスは兄を愛して尊敬の対象にしており、他の男には目もくれない、純潔の誓いを堅く守った処女神という理想的な妹でした。
そんな彼女でしたが、狩人の神であったこともあり、強さと美しさを兼ね備えた狩人のオリオンを好きになってしまいました。
怒ったのは妹大好きのアポロンです。
オリオンは女の子にモテモテの嫌なイケメン野郎だったので、絶対に妹を取られたくありませんでした。
そこで、アポロンはオリオンが海で泳いでいる時、アルテミスを海岸に連れ出して、彼女の誇りである弓の腕前を馬鹿にし、
「あの遠くで泳いでいるのは、とんでもない極悪人なんだが、お前、弓であいつを射貫くことができるか?」
と、そそのかします。
アルテミスは遠目であったため、それがオリオンだと気づかず、大好きなお兄ちゃんがそう言うなら悪人なんだろうと疑いもせず、銀の矢で恋人を射殺してしまいます。
翌日、オリオンの死体が海岸に打ち上げられたことで真相を知った彼女は、大いに嘆きか悲しんで、冥王ハーデスや父ゼウスに彼の復活を願いますが、聞き入れられなかったという話です。
この逸話のポイント
・欲望、妹を取られたくないアポロンと、好きになった男性と添い遂げたいルテミス。
・能力、狩人の女神という属性のため、狩人として優れたオリオンを好きになる。弓の名手であるアルテミスの能力が利用される。
・結果、兄の計略により恋人を自分の手で殺すという悲劇。優れた狩人が自分の得意とした弓矢で殺されるという皮肉。妹萌えの勝利。
愛する者を計略を用いて手にかけさせるという悲劇は、神話ではたびたび登場する王道的な話です。
ギリシャ最大の英雄ヘラクレスの妻も、夫の愛を取り戻す霊薬と騙されて、夫にヒュドラの毒を盛ってしまい、死に至らしめてしまいます。
ライトノベルにも大いに応用できるパターンでしょうから、知っておいて損はないでしょう。
ちなみにオリオンはただなんとなく海で泳いでいたのではなく、彼は海神ポセイドンの息子だと言われており、水の上を歩く能力を持っているなど、海にゆかりがあり、海が好きだったようです。
登場人物の能力や属性を作中で無駄なく活用しているのがわかります。
ライトノベルでは冴えない少年が、なぜか美少女に愛されるという設定が人気です。
ギリシャ神話にもこの原型があるのですが、そのギャップはかなり極端なものです。
ゼウスとヘラの最初の息子である鍛冶の神ヘーパイストスは、生まれた時あまりにも醜い容姿をしていたため、ショックを受けた母によってオリンポス山から海に投げ捨てられてしまいます。
ヘーパイストスは命は助かったものの、両足がねじ曲がるという悲惨な目に合います。
そこを運良く海の女神テティスが通りかかって、彼を拾い上げ、連れて帰って我が子として育てることにします。本来は天界の王子であったはずのヘーパイストスは、不細工だという理由で、実母に愛されなかったのです。
彼は、その生まれ持った能力を生かして、養母のために美しい宝石細工を作ってやり、彼女を喜ばせました。
そして、9年後、成長したヘーパイストスは本来は自分のものだったはずの天界の王子の座に返り咲きたいと願います。
そこで美しい黄金のイスを作って、ヘラに贈りました。
ヘラがコレに坐ると、イスから黄金の腕が伸びてきて彼女の身体を拘束し、動けなくしてしまいました。
ヘーパイストスは、
「自分を実の子として神々の前で認め、オリンポスの神々の一員としてくれれば、助けてあげます」
と取引を持ちかけ、見事、これを承諾させます。
しかし、ヘラはヘーパイストスのこの仕打ちを恨んで復讐するために、美の女神アフロディーテと彼を結婚させることにしました。
絶世の美女で浮気者のアフロディーテを妻に貰ったら、彼はまったく相手にされなくて辛い日々を送るだろう、と画策したのです。
ここで、天界一の不細工と天界一の美女という大変ギャップのあるカップルが生まれることになりました。
ヘラは嫌がらせのつもりだったのですが、非モテからリア充に変身したヘーパイストスは大喜びし、度重なる妻の浮気にもたじろがなかったということです。
また、アフロディーテもヘーパイストスのやさしい性格を愛し、浮気を繰り替えしても最後には夫の元に戻ってくるツンデレぶりを発揮したようです。
この逸話のポイント
・欲望、自分を愛さなかった母に復讐したい。王子の座を取り戻したい。
・能力、鍛冶の能力を生かして、養母に恩返しをし、実母に復讐を果たす。
・結果、オリンポス十二神への仲間入り。絶世のツンデレ美女アフロディーテを妻にし、ラブコメ展開の毎日。
ヘラが嫌がらせのつもりで行ったアフロディーテとの結婚は、突然、美少女と同じ屋根の下で暮らすことになるという、現代のラノベに通じる物があります。
また、醜い容姿の男が美女に愛されるというのは、童話『美女と野獣』とも共通しており、カタルシスを生む王道的な設定と言えます。
ギリシャ神話を読んでみると、おもしろい物語の構造を知ることができるだけでなく、キャラクター作りの参考にもなるので、オススメです。
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