ウィットとは、皮肉なセリフや、理知的な言動で相手をたしなめたり切り返したりする技です。
予想外、それでいて納得ができる発想や回答を相手に返すことによって、爆笑ではなく、小さな笑いを誘います。
ライトノベルの中でも、ウィットは使われています。
例えば『バカとテストと召喚獣』(2007年1月刊行)は、キャラクターの特異な個性を利用して笑いを取るだけでなく、ウィットも活用しているので、意外と知的な笑いを楽しめます。
「俺はお前を去年一年見て、『もしかすると、吉井はバカなんじゃないか?』なんて疑いを抱いてんだ」
「それは大いなる間違いですね。そんな誤解をしているようじゃ、更に『節穴』なんて渾名をつけられちゃいますよ?」
(中略)
「お前はバカだ」
引用・バカとテストと召喚獣1巻(2007年1月刊行)
高校一年生、最後に行われた重要な試験の結果を、教師が主人公に伝える際にこのようなやりとりをしました。試験の結果は、最低でした。
「バカなんじゃないかと疑っていた」ということは、本来なら、バカではないという確信を得たというニュアンスを持っています。しかし、ここではその予想に反して、バカであるという確信を持った、ということを浮かれる主人公に伝えて、オチにしています。
●例1 ネガティブをポジティブに変える
「こいつは俺の女房、昔は美人だった」
「今は超美人」
漫画『宇宙兄弟』((2008/3/21刊行)に出てきたアメリカンジョークです。
「昔、美人だった」という言葉には、今はそうではないというニュアンスがありますが、これを逆手に取って、今はもっと美人になっていると、奥さんが切り返しています。
奥さんの強気のキャラクター性が出ていて笑えます。
●例2 離婚に共通する原因
「どの離婚にも必ず発見できる共通した原因とは何かわかりますか?」
「性格の不一致?」
「いえ、結婚したことです」
これは、当たり前のことを言っていますが、常識的に予想される答えと違った回答をしていておもしろいです。
予想外でありながら、納得できる答えというのにはユーモア性があります。
●例3 イギリスの文豪バナード・ショーと女優とのやりとり
イギリスの文豪バナード・ショーは、ウィットに富んだ数々の名言を残しています。
ここで紹介するのは、その中でも最も有名な言葉です。
美人と評判の女優が、バナード・ショーにひとめぼれをしたことがありました。
彼女は強引な性格で、自分が欲しいと思ったモノは何が何でも手に入れようとします。
この美女は、自信満々、とっておきの殺し文句で、バナード・ショーを口説きにかかります。
「あなたの才能と私の美貌を合わせた子供が生まれたら、すばらしいことだとは思いませんこと?」
「キミの才能と私の容姿を受け継いだ子供が生まれたら、どうするんだい?」
美女は二の句がつげず、すごすご退散したそうです。
相手の言葉を利用した、うまい切り返しですね。
●例4 『世界が燃え尽きる日』(1977年10月公開)というSF映画 での会話
これは近未来の核戦争による人類滅亡がテーマの映画です。
「なぜ軍隊をやめた?」
「いやになったのさ」
「そんな人間が増えたらどうなると思う?」
「ずっと住みいい世の中になると思うよ」
ユーモア性は高くないですが、なかなか示唆に富んだうまい切り返しウィットです。
●例5 イスラエルの将軍の演説
イスラエルのある将軍は、色好みとしてよく知られていました。
かつてのエルサレムでの選挙演説のさい、彼は聴衆の1人からこの点を突っ込まれ、窮地に立たされました。
「将軍、あなたの主張には賛成だが、女遊びだけはやめていただけませんか?」
「なるほど……。ところできみは、自分を男と思うかい?」
「はい」
「それなら、ある美しいお嬢さんから好きですと熱烈なアプローチを受けたら、むげに断れるかい?」
「……いや」
「それでこそキミだ!」
ご覧のように、ものすごい屁理屈ですがユーモアを感じさせます。
将軍は機転を効かせて何とか窮地を切り抜けました。
これは三段論法と呼ばれる話術の変形です。
通常は「男は女好き、キミは女好き、ゆえにキミは男だ」という論理が展開されるところを、少しアレンジして問題のたくみなすりかえを行っています。
ウィットを活用するのは、知識とセンスが必要なので難しいですが、理知的で上品な笑いを提供してくれるので、身に付けると強力な武器になります。
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