ジジさん(ラノベ新人賞下読み)のコラム 2014年01月13日
以前、女性向け応募作で俺TUEEE系の応募作はたいがいおもしろくない。というお返事をしたのですが、それについて補足を。
なぜ俺TUEEEがおもしろくないのかと言えば、応募者の方が俺TUEEE能力者である主人公を持て余すからです。
この属性の主人公を使う場合、「最強の主人公にいかなる苦難(物語的起伏)を与えるか」 がポイントになりますが、そこがきちんと作り込めないため、単なる都合のいい話になってしまっているわけです。
女性の応募者にこれが多いのは、何度も述べているとおり、女性読者が妄想をきちんと妄想だと認識できてしまう現実的な感覚を持っていて、妄想というものをそれこそ想像するしかないからではないかと思われます。
ラノベにおける俺TUEEEの元祖と言えば、おそらくは神坂一氏の『スレイヤーズ!』(1990年1月刊行)になるかと思われますが、あの作品の着目ポイントは主人公リナ・インバースの強さではありません。
主に性格上おそろしい欠点を持つ主要キャラたちに、最強主人公の足を全力で引っぱらせるという構造です。
壊滅的な状況を次々作り出し、最強主人公を事件に巻き込んでいくボケた仲間たち。でも、いざとなれば彼らはその能力をいかんなく発揮して窮地をくぐり抜けてみせる。このマッチポンプとしか言い様のないキャラ構成はキャラたちを輝かせ、さらには強い主人公にツッコミとして苦労させることで、読者に見上げさせないTUEEE像を実現しました。
俺TUEEEを筆頭にした憧憬型主人公を据える際に考えなければならないのは、物語の視点になる主人公をいかに読者にリンクさせられるかです。
その方法論として、ふたつの脇キャラの活用があります。
ひとつは『スレイヤーズ!』のように脇キャラを利用した主人公潰し(お笑いで言うところの相方潰し)。出る杭を打たせることで強者の上位性を下げ、読者に近づける方法。
もうひとつは読者が視点を預けやすい、普通のキャラをもうひとりの主人公として立てる方法。ライトノベルですと手代木正太郎氏の『王子降臨』(2013年7月刊行)がこの手法ですね。
谷川流氏の『涼宮ハルヒの憂鬱』(2003年6月刊行)もここにカテゴライズされますが、ちょっと変化球。
前者は読み物としてのおもしろさを発揮しやすく、後者は読者の共感を得やすい。どちらにも大きなメリットがあります。俺TUEEEだけでなく、他人と違う特殊な主人公を据える際は、このように読者視点のキャラを配置することを考えてみるのもよいかと思われます。